「吐き出す」と「すっきりする」のはなぜ?~受け止め、返してもらうこと~
はじめに
「話を聞いてもらい、吐き出せてすっきりした」
そう感じた経験がある方は少なくないでしょう。胸の内に溜まっていたものを言葉にして外に出すと、少し楽になる感じがします。「吐き出す」という表現は、その感覚をよく表しているように思えます。
でも、本当に「吐き出す」だけで、私たちはすっきりするのでしょうか?
実は、「吐き出す」という言葉だけでは十分に表現されていない大切なものがあります。それは、「受け止めてくれる誰か」の存在です。
たしかに、モヤモヤした気持ちを抱えている時に、自室で壁に向かって一人で愚痴を言ったり、あるいは、日記に書きなぐったりしてみても楽になる部分もあります。言葉にすることで、自分の中の混乱が整理される部分は少なくありません(→コラム第1回を参照)。
しかし、信頼できる相手に話を聞いてもらった時に得られる「すっきり感」は、それとは少し異なる種類のものと感じませんか?それは、相手がただそばにいるだけでなく、あなたにとって大切なことをしてくれているからです。
変換されて返ってくる
赤ちゃんについて考えてみましょう。赤ちゃんは、お腹が空いた時、おむつが濡れている時、眠いのに寝つけない時、暑苦しい時など、とにかくよく泣きます。しかし、赤ちゃん自身は自分が何に困っているのか、何がつらいのか理解していません。ただ耐えがたい不快感を抱えていて、それを伝える手段として泣くしかないのです。
そこに大人(例えば、お母さんやお父さん)がやってきて、抱き上げて、あやして、おむつを替えたりミルクをあげたりします。すると赤ちゃんは落ち着きます。
この時、お母さんやお父さんは赤ちゃんの泣き声をただ「聞いている」だけではありません。赤ちゃん自身でも理由がわからない混乱を受け止めて、「おむつが気持ち悪いのかな?」「おなかがすいたのかな?」などと想像しながら理解を試み、対応するのです。つまり、赤ちゃんの「よくわからない苦しさ」をまず受け入れ、それを「理解可能な何か」に変換して返しているのです。
専門的には、このように機能する養育者のことを「コンテイナー」と呼びます。容器のように相手の混乱を受け止めた上で、それを消化し、取り扱い可能なものにして関わり直すのです。
相談場面で起きていること
実は、子どもと養育者の関係だけでなくあらゆるコミュニケーションにおいても同様のことが起きています。
例えば、相談する時、私たちは「何が問題なのか、どんな気持ちなのか」を自分でさえもよく分かっていない場合があります。ただ、モヤモヤする、苦しい、やりきれない、しんどい。でも、それが具体的に何なのか、どう言葉にすればいいのか分からない。
そして、話し始めると、最初は話がまとまらず、あちこちに脱線することも多いです。
相談を受ける側は、その混乱した話に耳を傾けているうちに「今、この人は何に苦しんでいるのかな?」とか「この出来事は、この人にとってどんな意味があるのだろうか?」などと考えながら聞くことができます。
そして、頃合いを見計らって「つまり、こういうことでしょうか」と整理して返したり、「それは辛かったでしょうね」と気持ちに言葉を与えたりします。
すると相談者は、「そうだ、自分はそういうことが言いたかったんだ」とか、「自分はいつもこういうことに不安定になるんだった」などと気づきを得ることができるかもしれません。自分の中にあった言葉にならないモヤモヤが、相手によって言葉にされ、理解可能なものになる瞬間です。
あるいは、相談を受ける側が何も言わなくても、話しているうちに相談者自身が「ああ、私が苦しかったのはこれだったんだ」と気づくこともあります。これも、相手が真剣に受け止めてくれているからこそ起きることです。
ただし、受け止める側にも限界があることを忘れてはいけません。赤ちゃんが何をやっても泣き止まず、親も疲れ果ててしまう時、特に周囲に助けてくれる人がいない時、受け止めきれなくなることもあります。相談においても同様で、受け止める側が余裕を失えば、この機能は働きにくくなります。
私たちが「吐き出してすっきりした」と思える時、ただ、胸の内のモヤモヤが外に出されるだけではありません。それ以上に、それを受け止めてくれる誰かがいて、その人が真剣に聞いて、理解しようとしてくれることこそが重要なのです。
第2回でお話しした「鏡」のように映してもらうだけでなく、受け止めて、変換して、返してもらう。鏡が平面的だとすれば、これはより立体的で奥行きのある関わりと言えるでしょう。その一連のプロセスを通じて、相談する人は「すっきりした」という感覚を持てるのです。
相談相手は、ただの「はけ口」ではありません。言葉にならない混乱を受け止めて、何らかの形で理解可能なものに変換して返してくれる、大切な存在なのです。
今回は、「受け止められる」ことの大切さについてお話ししました。ただ、相談することの効果は、それだけではありません。次回は、相手から新しい視点やアイデアをもらえることの意味について考えてみたいと思います。